hinata

account

Magazine

Art

伝統に囚われず、伝統を活かす。琉球紅型作家・新垣優香が語る創作のルーツと未来

Art | 2023.04.14

Text by Hinata official

  • Bingata
  • Feature
  • Interview

南国の燦かしい太陽のような、力強く活力あふれる文様が魅力の琉球紅型。
かつては王侯貴族の身を飾る特別な着物だった琉球紅型ですが、現代では沖縄の夏の普段着「かりゆし」に取り入れられるなど、伝統工芸でありながら誰でも気軽に着ることができる身近な存在となっています。

そんな琉球紅型をさらに全国・全世界に届けるために、紅型作家の新垣優香氏が選んだステージは、最新デジタル技術であるNFTという世界でした。

新垣氏に、琉球紅型とどのように向き合って制作しているかや、デジタル化に掛ける想いなどお聞きしました。

『伝統』を美しく描くための多くの工程

―― 「HINATA」へのご参加ありがとうございます!
   今回、NFTという全く新しい領域に踏み出してみたきっかけなど教えていただけますか?

【新垣優香】
はい。紅型はどうしても制作の工程が複雑で時間がかかる大変さもあり、数がたくさん作れるものではないため、世の中に出せる作品の数が限られてしまいます。
そうなると、価格も高価になり、多くの人の手に取ってもらう難しさも出てきてしまい、なかなか認知度が広がらないことが悩みの一つでした。

しかし、今までにない新しい技術であるNFTは、デジタルデータでも本物と証明することで、作品に新たな価値を与え、より多くの方に知ってもらえるきっかけになるのではと思い、チャレンジしてみようと思いました。

―― やはり紅型も伝統工芸ですし、制作は大変なんですね。
   制作にはどれくらいの時間がかかるんですか?

【新垣優香】
通常、制作には概ね1〜2ヶ月はかかります。

簡単に工程の説明をさせていただきますね。
まず、制作は【図案づくり】から始まります。例えば花をモチーフにする場合、たくさんの花を摘んできて、さまざまな角度から写真を撮ります。そして、それらを眺めながら具体的に図案に起こすイメージを固めて行きます。

次に、図案を洋型紙に貼り付けて型紙を作る【型彫り】。
そして彫った型紙に紗(網目状の絹)を張り、カシュー(薄めた漆)を塗って強度を上げる【紗張り】。
さらに生地の上に紗張りした型紙を置き、糊を塗って色が入らない部分を作る【型置】。

ここまででも結構、時間を要すのですが、実はこれらは染色をするための前準備の工程となります。

準備工程が終われば、さまざまな顔料から必要な色を作って生地を染める【色挿し】です。
その後、紅型の特徴とされる【隈(くま)取り】を行います。隈取りとは、図柄を立体的に表現するために更に濃い色を乗せたり、ぼかしを入れていく作業です。
生地に色が定着した後に、生地をぬるま湯に浸して糊をふやかしてから洗い流す【水元】を行います。

―― 本当にたくさんの工程があるんですね。

【新垣優香】
はい。でも私の場合はまだ終わりではありません。
最後に、独自の技法であるグリッター(光る顔料)を使用し、全体に輝きを与える【筆入れ】を行って完成となります。

完成した作品

重ね型という技法を用いる際は、この色挿しから水元までの工程を数回繰り返すこともあるので、大きな作品であれば、1点の制作に2~3ヶ月程度、必要となることもあります。

―― 1作品に2~3ヶ月ですか!!染物だとうっかり失敗もできないし、大変な世界ですね……。

思い描き追い求める『ニライカナイ』

―― 沖縄生まれの新垣さんにとっては、琉球紅型は結構身近なものですよね。
   紅型作家になる前と後で、紅型に対する思いが変わったりはしましたか?

【新垣優香】
私は沖縄で生まれ育ったので、紅型については沖縄の伝統的な衣装の柄という程度の理解はしていました。
そんな私が、自分の事として紅型と向かい合うようになったのは、高校の進学で首里高の染織デザイン科に入ったことです。進学の理由は、子供の頃から絵を書くのが大好きだったので、紅型の鮮やかな色に惹かれてというのが理由です。でも、実はその頃はまだ伝統工芸という世界自体をあまり身近に感じていなかったのが正直なところです。

社会人になって、作家として日々、紅型と向き合うようになってからでしょうか。紅型が沖縄の伝統工芸であり、先人の知恵や技術が継承されてきたことの意義や素晴らしさを実感するようになったのは。

私の根っこは、生まれ育った沖縄にあります。
これからも、一生、沖縄で紅型の創作活動を続けたいと思うようになりました。
先人から継承されてきた大切な知恵や技術に時代の変化を組み合わせ、私の伝えたい世界観を創作活動を通じて表現して行きたいと思っています。

―― 伝統工芸を通して、地域の歴史や風土への理解が深まるのは素敵ですね!
   新垣さんが創作コンセプトにしている『ニライカナイ』も沖縄の言葉ですよね?

【新垣優香】
そうですね。私の創作コンセプトである『ニライカナイ』とは、沖縄で昔から言い伝えられている言葉で「海の彼方にある楽園、誰もが笑顔でいられる世界」というものです。
それは空想的な世界というか、伝説的な世界というか、あくまで観念によるものなので言葉では説明しにくいものですが、私の中では、 ニライカナイは、誰もが笑顔でいられる世界というイメージなんです。
ですから、私の作品をご覧になられた皆様から「元気になった、笑顔をもらえた」というお声がけ頂けた時が、何よりも嬉しく、創作活動の励みになっています。

作品のコンセプトは『ニライカナイ』なのですが、それを表現する作品のモチーフについては、実は特別に何かを選んでいるわけではありません。
沖縄で暮らしていると、たくさんの花々が年中咲いて、鮮やかな色彩や幸せな香りを放っていますし、美しい海の色や波の音、蝶や鳥などがいつも身近にあるので、インスピレーションを得た時に、それら時々のモチーフで見た人が笑顔になればと制作しています。

―― 先程、工程の話でも少し触れられてましたが、新垣さんの作品には、伝統的な琉球紅型の固定概念に囚われない、斬新で独特の作風が特徴的ですよね。
   その中で、「琉球紅型として守るべきところ」と、「枠に囚われず変化・挑戦しているところ」はありますか?

【新垣優香】
琉球紅型として守るべきところは、先ず、先人に対する感謝と尊敬の念を持つことだと思います。
その上で琉球紅型として継承されてきた基本的な工程をベースに制作しているところでしょうか。
そのような前提がある上で、固定概念にとらわれない独自の発想のモチーフや重ね型などの技法、それから光沢のあるグリッターなどの素材を取り入れている事は変化・挑戦と言えますね。

新たに紅型に取り入れたいと思う要素は、海外の美術品からインスピレーションを得ることが多いように思います。
例えば、私が好きなグスタフ・クリムトさんの作品では、「接吻」に代表されるように金箔が多く用いられ、きらびやかで美しい世界観をとても素敵に表見されているので、とても感動します。その世界観は、どこか私のイメージしているニライカナイの世界と通じるものがあって、それが光沢のあるグリッターを用いるきっかけにもなっています。

―― 美しいグリッター技法が、まったくジャンルも制作背景も違う海外のオイルアートから影響を受けていたとは驚きです!
   新垣さんの描く新たな表現は、そのような自由な発想と「良いもの」を学ぶ姿勢の結晶だったんですね。

いろんなかたちで、いろんな人が、紅型に出会えるように

―― 今回、伝統工芸品をデジタル化・NFT化するにあたって期待していることはありますか?

【新垣優香】
やはり、新しいテクノロジーによって生まれたプラットフォームですから、これまでの活動とは異なるご縁で、多くの人に知ってもらえるきっかけになるのではと思うところです。

今回は、既存の作品を単純にデジタルデータとしてNFT化するということだけではなく、商用権も付与した形でのNFT販売という、より新しい形にチャレンジさせていただく事としました。商用権を付けて販売することで、購入された方が様々な形でまた新たな商品として世の中に出していく。ただ保有していただくデジタルデータとしてではなく、私が制作したオリジナルの作品がNFTで購入された皆様の力で、形を変えて多くの人の手に届く可能性を考えると、とてもワクワクします。

また、NFTのプラットフォームは、日本国内にとどまらず、世界中の方にも知ってもらえるきっかけ作りになると思うので、それはとても有り難いことです。

紅型が愛される未来へ

―― 新垣さんが仰ったように、これからデジタルの世界で多くの人が新垣さんの作品に、そして琉球紅型に触れていくことになると思います。
   なにか「今後こうなったらいいな」とか、「こんな世界が見たい」というようなイメージはありますか?

【新垣優香】
ひと言でいうと、沖縄の伝統工芸である紅型が世界の人々の身近になることです。
デジタルの世界では、その可能性が十分あると思いますし、他の作家さんとのコラボレーションによって新たな価値を共創できることも楽しみのひとつです。

そういう機会を通じて、マタニティやウエディングなどのお祝いことのシーンで、喜びに花を添えるような作品がたくさん生まれると嬉しいです。

―― ありがとうございました!

ARAKAKI YUUKA


ARAKAKI YUUKA

紅型作家新垣優香(あらかきゆうか)

1985年沖縄県那覇市生まれ。沖縄で生まれ育ったことで伝統工芸である紅型を知り、強い日差しにも負けない鮮やかな色使いに魅了され紅型作家を志す。

2011年と2012年に「りゅうぎん紅型デザインコンテスト」で2年連続大賞を受賞。日本美術展覧会(日展)入選、日本新工芸展4年連続入選など、着実に実績を重ねる。また、琉球銀行の通帳、国際交流基金によるウルグアイ巡回展、ヒルトン沖縄北谷リゾート、ホテルJAL CITY那覇のメインロビーなど複数の有名ホテルでの装飾、中学2・3年用美術の教科書(日本文教出版)、複数の大手企業の商品デザイン及び広告等に起用されるなど、伝統工芸という固定概念にとらわれない発想、技法、材料等により独特の作風が高く評価されている。

現在、沖縄(読谷村)を製作拠点とする新進気鋭の紅型作家として世界から注目されている。

websiteInstagram


WORKS

ARAKAKI YUUKA

Recommended

  • [INTERVIEW] もっと心の深くまで――芸術家・SAORI KANDA <1>

    Campaign

    2023.09.28

  • 京友禅の伝統資産をNFTでデジタル資産へ転換。日本の様式美を描いた草稿が、未来のアートを生み出す源泉となる。

    Campaign

    2022.02.14

  • 京友禅デザイン画「草稿」× 芸術家/肉体彫刻家「和久井 拓」氏のコラボ作品紹介

    Campaign

    2022.04.09

  • 閃きを信じて、未知数の色の世界へ。Irina Maskが描く極彩色のアート

    Campaign

    2022.12.26